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サチとカナエ

 私は、父が嫌いだった。

 私が生まれたのは、姉のサチが1歳と8ヵ月の時で、昭和から平成に年号が変わった年の10月24日だった。
 父は、長女である姉を溺愛(できあい)していたようだ。
第2子は、きっと男の子を望んでいたに違いないと、私は思う……
 そして誕生したのが、この私だった。

 姉のサチは、とても華やかな雰囲気の持ち主で、友達を作る事が得意で、いつも姉の周りには、人々がたむろしていた。
 大学に入ると同時に、髪の毛をセミロングにし、ふわっとカールさせ、お姫様タッチにしていた。
 そう言えば、小さい頃からサチは、フリフリの服が大好きだった。
一方私、カナエは、何故かいつも、何かに脅えていた。人見知りが激しく、人と話す事が苦手で一人で部屋にこもり、小説を読むのが唯一の楽しみだった。
 狭い家なので、姉のサチと私は、同じ部屋だった。
サチは何時も友達と遊びまくって滅多に部屋にはいなかったが、帰って来るといきなり
「カナエ又本読んでるの? 気ィしれない!」と云って私を詰(なじ)った。

 或る日『自分の名前の由来について』と云う宿題が出た。私はその事を母に尋ねてみた。
「う~ん、確かサチが幸せになるようにと、あんたに叶えてもらうために、お父さん、カナエと付けたみたいよ」
私は〝サーッ〟と血の気が退くのを覚えた。
『何と云う父親なんだろう…… 許せない!』
 ふと気が付くと、夜道を何時間も歩いていたような気がする。

 背後で父の声がした。
「カナエ、心配したじゃないか!」
 振り返ると父が、憔悴した顔で立っていた。
 逃げ出そうとした私の腕をムンズと掴んだ。
「お母さんが何と言ったか知らないが、確かにサチの幸(しあわ)せを叶えて欲しいとお前にカナエという名を付けたが、同時にカナエにも幸(サチ)を与えて欲しいと… 父さん欲張りすぎたかな?」
 父は、ちょっと照れたように笑い
「なあ、父さんはカナエがとても好きだ。控え目で母さんに似て美人だし、思慮深くて、お前には日本の女性の良さが沢山詰まっている。人にはそれぞれ違った個性がある。その素晴らしい個性に誇りを持ち大事にしなさい」
 夜空の薄明かりに父の目がキラリと光った。
『お父さん大好き……』心の中でそう呟き、そっと腕を組んだ。


-fin-



2014年5月課題
      OOと▲▲を登場させフィクションを創る。
      違う形のもの(物・者・動物等、何でもOK)や違う性格のものを登場させ
      フィクションを創作する。

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